小松亮太(Ryota Komatsu)

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3.ピアソラの「新しいタンゴ」[文:高場将美]
アストル・ピアソラの両親は、ともにイタリア移民の2世。ピアソラのお父さんはタンゴが大好きでした。お腹の大きい奥さん(つまりアストルの母)を連れて、流行の歌謡タンゴ「忘却の盃」が入ったお芝居を見に行きました。ふたりでタンゴに酔っているうちに、奥さんは産気づき、あわててオートバイで劇場から家に帰り、男の子が生まれました。

アストル・ピアソラは、タンゴのみちびきによって、この世に誕生した?……でも、子どものころは、タンゴは嫌いでした。お父さんは、彼をタンゴの道に引きこもうと必死でしたが、本人はやる気がなかった。そのころはニューヨークに住んでいました。アストルが好きだったのはジャズ、後にバッハでした。

アルゼンチンに帰国したのは、いわゆる思春期。ロマンティックな、音楽的に洗練された(ダンス用のリズムではない)タンゴ演奏を、偶然ラジオで聴いて、タンゴにハマってしまいました。もともと音楽の天才で、バンドネオンも技術的には名手。その上に、タンゴ独自の表現法を研究し、18才のときにはもう、最高の楽団のメンバーでした。やっぱり、タンゴの血が流れていた?

ふつうのタンゴ・ミュージシャンとは違う環境で育ってきたことが、彼の音楽の新しさを生むことにもつながったのでしょう。彼個人の天才、創造のエネルギーが、ピアソラの「新しいタンゴ」の真の原動力ですが。 「新しい」といっても、タンゴであることには変わりなく、ピアソラの音楽はすべて、伝統をその時代に生かしたものです。彼のやった新しいことも、今では正統派(?)タンゴの伝統の中に組み入れられています。

ピアソラが1960年に発明した5重奏の形も、今や伝統的な編成のひとつ。コンパクトで表現力豊かという経済効率も考えられているのが「現代的」ですね。ここに入っているエレキ・ギターは、最初は、ジャズのインプロヴィゼーション(即興演奏)をタンゴに導入するために採用されました。でも、5重奏では、(場合によりますが)ソロ奏者たちの集団を裏でまとめる充填式接着剤として使われます。弦セクションの小さな代役ですね。

古い根っこを、どのように新しい表現に生かすか?――ピアソラは、作曲家およびプレイヤーとしては、天成の直観だけで音楽をつくりました。でも、指揮者としては分析的な知性(これも天成ですが)を使いました。そこが偉大なクリエイター! 大昔のタンゴ楽団でもいい仕事をしていたギターに、さらに新しい作業を与えたという、だれでも考えつきそうなのにやらなかたことに大きな意義をもたせた。こんな小さくみえることの積み重ねが「新しいタンゴ」を実現したんです。

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